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1. |
僕の、背が高いだけの青い城
01:50
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1 僕の、背が高いだけの青い城
僕の、背が高いだけの青い城
僕の、背が高いだけの青い城
積み重ねるだけなら誰でもできる
そう言い聞かせて、ひたすら真四角の箱を塔のように
高く高く、明くる日も明くる日も
いつしか雲にも届く高さになり
青色が好きだからとそればかり集めていたら
貴方のお城は寒そうねと
王になる前から王妃に振られた
僕の、背が高いだけの青い城
寒々しく、芸のない
僕の、背が高いだけの青い城
見晴らしばかりは最高で
ほら、地平線の向こうにいる
誰かが手を振っている
遠く遠く、豆粒みたいな影が
海や空や星
思いつく限りの素晴らしい青になぞらえて
まだ見ぬ君なら笑ってくれるかな
笑ってくれるといいんだけどな
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2. |
蛙は利口だ
02:00
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2 蛙は利口だ
音楽の授業で張り切るタイプを
冷笑していた時期を過ぎて
一生懸命なソプラノに
とうとう涙ぐむようになってしまった
振り返れば、僕は本当につまらない人間で
こうして感傷に浸るあたりやはりつまらない人間だ
振り返れば、あの子も何一つ変わることなく
少し離れた丸い瞳で、今もやさしく笑いかけてくれる
ただ成長していないだけ、と笑うけれど
誰にも触れられない場所に秘め続けた綺麗なものを
揺らぐことなく持ち続けるということは
どんなことよりも激しい諍いなのだ
それが一番利口な生き方、などとは言いたくない
言葉を選ぶ僕にあの子は大きな口で笑う
褒めるだけのことにそこまで頭を悩ませないでと
高く、迷いなく、飛び跳ねるような
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3. |
日々は、五月雨式に
01:54
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3 日々は、五月雨式に
落第、ドロップアウト、不適合
何が正しいのかわからない中でも
確かに外れたな、と思う瞬間はいくらでもあり
古い記憶は裏拍になるカスタネット
責められることはなくても、瞳の奥にある色合いを
正確に感じ取る目敏さだけは優れていて
負わなくもいい傷を馬鹿になるまで浴びて
可哀想ねと撫でられる時期はとうに過ぎ去り
こんなにまで悲しい
悲しい人に
朝焼けが目に痛い
夜の空気は耳が痛い
いつまで探そうか
安寧へと続く列車
誰も知らない国に思いを馳せ
どうしようもない夜を何度も迎えている
それでも
観たことなかった古い映画に涙して
誰かと分かち合いたくなったり
何をどう嘆こうと
日々は、五月雨式に
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4. |
そう、落ちるならギリシャがいい
02:15
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4 そう、落ちるならギリシャがいい
そう、落ちるならギリシャがいい
底なしへのフリーフォール
光も音も、時も君も
過去も未来も、食べかけのトーストも
何もかもを置き去りにした
古いレコードが繰り返し囁くように
パトランプ光らせて
血が、酸素が、身体を巡る
空を切る手足、爆ぜそうな心臓
明日が見えない霧中、一寸先は悲しみ
ふと思い出した星空は、知らん顔で輝いて
一度も僕には寄り添わなかった
絶望するのは楽で
希望を抱くのは歌を歌うより難しい
それでも僕のポップスに
君は、嬉しそうに聴き入った
そう、落ちるならギリシャがいい
なんてったって海が綺麗だ
それを教えてくれた君の
君の顔ばかりが、今になって
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5. |
次の月のない夜に
01:33
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5 次の月のない夜に
いろとりどりのランタンは気球の形
赤や緑があっちこっちへと反射て(はねて)
嗅いだことのない匂いは
名前も知らない国へと誘う(いざなう)
花弁が素数だという花
煙をたたせるゴブレット
昼間の光を放つ石
遠い地にいた少女の髪束
何処の誰なのか、謎の肉
床店の店主の髭は豊かに靡き
太い指で弦をおさえる
鳴り止まない旋律は協和を知らず
誰かはそれに郷愁を重ね
誰かは不安で涙を流した
どうぞご贔屓に、どうも
次の月のない夜に
また会えたなら、その時はきっと
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6. |
三角先生に会ってきた
04:00
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6 三角先生に会ってきた
空は青すぎる程青く、雲は白すぎる程白く、煙は高すぎるほど高くのぼっていく
シャツのボタンを一番上までとめて、いつもより息苦しさを感じていた
黒い群れの中を泳ぎ、やがて辿り着いた場所で、僕は周囲の真似をした心無い儀式をする
だって、まだ何も感じない
喪失も悲しみも、共に過ごした時間と比例するものだから
連絡をくれたのは、もう何年も音沙汰がなかった同級生だった
サンカク先生が死んだらしい
と、彼は挨拶もそこそこに気落ちした声音で言った
僕は一瞬誰のことかわからなくて「サンカク先生」と何度か呟き、やがてしわくちゃの白衣を思い浮かべる
三角先生はあの小さな町で小さな病院を営む医者で、「サンカク先生」というあだ名で皆から慕われており、僕は彼のことが嫌いだった
だって、子どもにとって医者は医者というだけで天敵だったし、サンカク先生は確かに優しい人ではあったけれど、とてつもなく注射が下手だったのだ
僕は何度も「痛くないよ」と偽る彼から下手くそな注射を打たれている
子どもの時に打った予防接種は、全てサンカク先生によるものだ
何本打ったかだなんていちいち覚えていないけど、一本打つごとに僕はきっと彼のことを嫌いになったに違いない
最後のお別れですので、是非お花をおさめてあげてください
渡された花はサンカク先生の白衣みたいに真っ白だった
何十年ぶりかに見る先生の顔は、「そうそう、こんなんだったよね」と思えるはずもなく、全く知らない何処かの誰かみたいによそよそしい
少し茎の折れた花を、サンカク先生の顔の傍に添える
こんにちは、サンカク先生、お元気でしたか
口には出さずに語りかけ、やがて沈黙する
かけたい言葉なんてあるはずもない
「先生のこと、嫌いでした」
内緒事を打ち明けるみたいに小声で囁く
皆に好かれていたあなただけど、僕は嫌いだったんだよ
もちろん、先生は何も言わない
でも、少しだけ、穏やかに笑っているように見えた
まるで「知っていたよ」と言わんばかりの
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